現代アラブ社会〜「アラブの春」とエジプト革命〜
読了。
2010年〜11年に発生した「アラブの春」は、結局の所なんだったのかを、主にエジプト革命に主眼を置いて専門家の分析を元に紐解く本。
300ページくらいある本ですが、最初の200ページ超を割いてアラブ諸国の歴史や、経済環境の解説、現地住民に行ったアンケートの結果など仔細な内容に割かれています。分析手法としては誠実と感じるものの、読んでいて若干冗長に感じます。
不正確な点もあるかもしれませんが、僕が読み取った要旨は以下。
- エジプトは、1950年ごろから続く独裁体制により統治されていた。
- エジプトはアラブ諸国の中でも政治的に比較的安定し、失業率も低めで、教育水準も高い。
- ただし人口の20%を占める15歳〜24歳の若者の失業率が相対的に高い。2007年で約25%。
- 都市部の高学歴の若者が賃金の高い仕事にありつけない。逆に農村部の識字能力もないような人の方が農作業にありつける、という逆転現象が起きている。
- そういった都市部の若者の不満が、独裁政権の腐敗問題と結びつき、革命に結びついた。
- 革命の中心となった若者は力不足や経験不足、方向性の不明瞭さなどから政治の受け皿となれず、ムスリム同胞団が支持する政党が多数派となる。
- SNSを駆使した「情報革命」と称される事が多いが、実際はPCなどでSNSにアクセスする人間は少なく(20%程度)、アルジャジーラなどのアラビア語放送や、地域のクチコミ、コミュニティが情報の伝達に有効に使われた。
経済的な貧困から生まれた革命というよりは、都市部のインテリ層の社会に対する不満から行われた革命であること。
独裁政権の打倒を目的としているが、特定イデオロギーによる政治の転換を求めた革命ではないこと。たとえばイスラム原理主義による政治転換が目的では無いこと。
ただし、若者では受け皿になれずに、最終的に文民統制という形でイスラム原理主義が政治を統制することになったこと。
そして、本書の枠外ですが、2013年7月に軍部クーデターが行われ、文民統制は1年で終焉したこと。そしてそのクーデターを、若者が支持した事。
などが現在進行形で語られる、エジプト革命と、その後、という事になると思います。
「アラブの春」の革命により、独裁政権が倒れた今もエジプトも混乱が続いていますし、リビアやシリアでは内戦にまで発展し、特にシリアは平穏を取り戻すまでにはまだ時間がかかりそうです。
独裁政権と民主主義政権、という枠組みや、「文化の衝突」的なイデオロギーの対立、それぞれのどちらが良くてどちらが悪いか、という風に単純化してモノゴトを捉えることは、ことアラブ社会の現状から考えると難しいようです。