読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

アイ

マエストロ



僕はさそうあきら氏の描く「音楽」マンガが好きで、『神童』『ミュジコフィリア』そしてこの映画の原作となった『マエストロ』などを好んでよく読んでいます。

好きな理由は、非常に情けない話ですが、日本で「音楽」をテーマにしたマンガは、音楽について語られる事はほとんどなく、周辺の恋愛模様であったり、そういう主題のオマケ程度にしか音楽が語られていない中、さそうあきら氏の上記の作品群は明確に「音楽とは何なのか」「音楽の魅力とはなにか」といった事をテーマとしており、その点に個人的には魅力を感じています。

その中で、映画にもなった『マエストロ』は、指揮者、そして交響楽団をテーマとした作品で、音楽を作り出す上で指揮者の役割とは何なのか、そして交響楽団の構成メンバーの役割は何なのか、1話完結のエピソードを重ねる事で描かれている漫画です。

喩えが正しいか分かりませんが、音楽版「ハッピーフライト」的な要素がある漫画で、クラシック音楽の豆知識を織り交ぜつつ、普段は裏方の立ち位置になりそうな地味な楽器の奏者にも光を当てて、読者のクラシック音楽に対する興味を引き出す構成になっています。もちろん小ネタを披露するだけのウンチク漫画ではなく、根本には音楽に対する深い理解と愛情があふれています。

読後感として、音楽がより素敵に思え、好きになり、クラシックをもっと沢山聴いてみたい、と感じさせる漫画です。

 

 

 

さて、その漫画を原作に映画化されたこの映画ですが、基本的に駄作なので見ないで良いと思います。

一つ例を挙げると、主人公の天道徹三郎は、漫画では、汚い言葉使いを使いながらも音楽に対する尋常でない深い知識と経験を持ち合わせているエピソードが各所に織り込まれており、下品ながらも知性を感じさせる発言が多く、だからこそ楽団のメンバーが彼を畏怖しながらも尊敬し魅了されるのが読んでいても良く分かります。しかし、映画では、演じた役者の品性の問題なのかもしれませんが、ただ下品なだけで知性を感じられません。この時点で、物語としての説得力の大半を失ってしまい、良く分からない映画になっています。

指揮者の天道の扱い以外にも、この映画は全体的に説明不足の印象を受ける作品になっていますが、これは、監督が、この作品にとって何が大切で何を伝えなければいけないのか、といったことを咀嚼する力がなかったからでしょう。

 

音楽映画って、監督が対象に対する深い理解と愛情が無いと底の浅い映画になりがちで、かつクラシック音楽という学習コストの高い対象になれば監督の力量が思いっきり作品の質に反映してしまいます。当作品の監督は父親が上岡龍太郎ということでかろうじて芸能業界にいつづけられている人で、諸々の才能もそうですが音楽が別に好きでもないのだろうから、個人的には、無理してこんな難しい題材を取り上げなくても良かったんじゃないか、と感じてしまいました。