アイ

風に立つライオン

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今年映画化されたり、最近のNHK SONGSで特集されたり、と、この歌の存在感が日々増している事を感じます。

 

僕自身のこの曲との出会いを思い出すと、この曲を初めて聴いた時に、今まで聞いていた他の音楽(アイドルソングや、一般的なJ-POP)とのあまりの差に愕然として、「こんな音楽が世の中には存在するんだ」と衝撃をうけたことを今でも鮮明に覚えています。

クラシック編成による壮大なオーバーチュア、それに相反するような朴訥で抑揚のない独白のような歌と、そこで語られる強い思い、そしてエンディングのすべての感情を開放するかのようなアメイジング・グレイス。

今思うと、アフリカの雄大な自然を表現するためにはovertureもアメイジング・グレイスも必要だろうし、歌の中の語り手、主人公の心情を表現するためには語りかけるような穏やかな歌のスタイルも自然でしょう。特に奇をてらうわけでもなく、必然としてこのような独特で唯一無二な楽曲が出来上がったのだと思います。

いずれにせよ、この曲をきっかけに、世の中に流れているある意味普通である意味無味乾燥な音楽とは全く異なる音楽を作り上げている人の存在を知り、結果のめり込むようになりました。

 

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歌詞については、僕は最初に聴いた時は、少し女々しいと感じていました。遠く離れた場所から、かつて付き合っていたであろう女性の結婚に対して、おめでとうという言葉を送りつつも自分がなぜこの場所に居るのかということを言い訳じみた言説で相手に伝える、そんな歌に聞こえていました。

しかし僕も人生の歲月を重ねる事で、この歌の味、というのが少しづつ分かるようになってきました。

人生を歩むということは、自分が本当に大事だと思うことを両手で抱え、そうでないものについては望む望まないにかかわらず捨てていくことだ、と最近は感じています。

どんなに大事なものでも、より大事なものを手元に残すために、抱えきれないものについてはやむを得ず捨てなくてはいけません。不意に零れ落ちる事もあるでしょうし、本当に大事なもののためにやむを得ず捨てるという思い切りを経た結果であることもあるでしょう。果たすべき目標、夢、もしくは使命みたいなものが大きくなればなるほど、その「捨て去る」という行為に直面することになるかもしれません。

この歌は、そういう、捨てたく無いもの、捨てるべきでなかったものを結果として捨て去ってしまった人間の、それでも守り続けたいものを守り続けた人間の、名状しがたい心情の吐露、と理解しています。

エンディングのアメイジング・グレイスも、作者の意図は別として、僕は、それまで穏やかに朴訥に自分の感情を抑えていた歌の主人公が、自分の抑えきれない感情を雄々しく叫ぶようにさらけ出す、そんなシーンだと思うようになりました。

 

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この歌はアフリカを舞台とした海外医療に従事する若者の医師のお話ですが、 歌詞に描かれているような具体的な言葉のひとつひとつや、描かれたエピソードのことは、僕はそこまで意識しないようにしています。この曲を聴いた事により多くの方が医療や海外支援事業に自分の身を捧げる決断をしたという実話を耳にしますが、僕はこの歌に影響を受けて医者を志たり海外に渡ろうと思ったことは(申し訳ないですが)ありません。

ただし、2番の歌詞中の「僕は現在を生きることに思い上がりたくないのです」という台詞は、常に僕の心の中で暖め続けている言葉で、悩んだり、思い上がりそうになった時、魔が差しそうになった時などに、必ず心の中でつぶやくようにしています。

 

現在を生きることに思い上がりたくないのです

 

この言葉の前には、身の回りの瑣事に一喜一憂したり気持ちが動いたりしている自分がとても小さく見えます。自分の背筋を伸ばし、視線を真っ直ぐにするための、魔法の言葉です。

 

そんな風に、世間的な捉え方とは少し異なる形で、僕はこの歌を消化し、かけがえのない大事な歌として、今も抱えて生きています。