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たそがれたかこ

 

たそがれたかこ(1)

たそがれたかこ(1)

 

最近読んだ漫画の中で、一番強い印象を受けた漫画でした。

正直、こんな漫画存在しちゃって良いんだ、という感じで。

 

主人公のたかこは45歳のバツイチの女性で、母と安アパートで二人暮し、毎日食堂でバイトをし、不登校の過去がある対人コミュニケーションに不安を抱える女性。

そんな地味すぎてストーリーが成り立つのか読者を不安にさせるなかお話が進みますが、小料理屋の気さくなマスターとの出会いや、ファンになった若手バンドに心惹かれる中で、徐々に自分自身の心を表にさらけ出し、行動に移していくたかこの姿に、読めば読むほど目が離せなくなっていきます。

 

この漫画のテーマのひとつに「勇気」というものがあると思います。

お話の中、たかこの実践する行動のひとつひとつは傍からみたら本当に些細なものです。

ふと知り合った小料理屋のマスターに誘われたのでお店に一人で訪れてみる、自分の好きなバンドを同じように好きだと思われる中学生の男の子に声をかける、初めてバンドのライブを観にライブハウスに訪れる、そして、いままで相手に気遣いするばかりに本音を出せなかった母や元旦那、娘に対して本音を伝える。。

しかしながら、それらのひとつひとつが、彼女にとっては大きな一歩なのです。

コミュニケーションが苦手で、不登校の経験があり、離婚など様々な原因で心の殻を作ってしまったたかこの姿を丁寧に丁寧に描いているからこそ、その殻を破る「勇気」がいかに生まれ、それを発揮するためにどれだけの心の動きがあったか、真に迫って読者に伝わってきます。

もちろんワンピースのようなジャンプ的な「勇気」をテーマにした漫画も良いのですが、こういう、日常生活の中でのささやかな「勇気」こそが、本当のところ我々の日々の生活の中で求められるものなのではないか、と気付かされます。

45歳にもなれば、みな良い大人で、みな十分に成熟して社会に馴染んでいると思ってしまいがちですし、人生も下り坂で、これから若気の至り的にある意味無様な姿をさらしてまで新しい事に取り組まなくても良いと思いがちです。しかし、何歳になろうとも、新しいことに触れる「勇気」、自分として新しい一歩を踏み出す「勇気」、そんなものが大事だと感じさせ、僕らに勇気を与えてくれる漫画です。

 

この漫画の多くの読者が同じことを考えるかもしれないですが、45歳のたかこの姿を見て、僕は茨木のり子さんの「汲む」という詩を思い出しました。

大人になるというのは
すれっからしになることだと
思い込んでいた少女の頃
立居振舞の美しい
発音の正確な
素敵な女のひとと会いました
そのひとは私の背のびを見すかしたように
なにげない話に言いました

初々しさが大切なの
人に対しても世の中に対しても
人を人とも思わなくなったとき
堕落が始るのね 墜ちてゆくのを
隠そうとしても 隠せなかった人を何人も見ました

私はどきんとし
そして深く悟りました

大人になってもどぎまぎしたっていいんだな
ぎこちない挨拶 醜く赤くなる
失語症 なめらかでないしぐさ
子供の悪態にさえ傷ついてしまう
頼りない生牡蠣のような感受性
それらを鍛える必要は少しもなかったのだな
年老いても咲きたての薔薇  柔らかく
外にむかってひらかれるのこそ難しい
あらゆる仕事
すべてのいい仕事の核には
震える弱いアンテナが隠されている きっと……
わたくしもかつてのあの人と同じくらいの年になりました
たちかえり
今もときどきその意味を
ひっそり汲むことがあるのです

僕は、たかこ(年上なのに呼び捨てもあれですが)のこれからの人生が素晴らしいものになることを、心の底から祈っています。

漫画の主人公に対してこんな風な気持ちになるのも僕的にはだいぶ珍しいことで、そういう意味でもこの漫画の特殊さを感じます。

 

ちなみに、こんな地味な漫画でも、「このマンガがすごい!」でランキング入りしてるんですね(僕は購入したあとに知りました)。日本の漫画文化のレベルの高さ、成熟度の高さを改めて感じます。

konomanga.jp

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