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凍りの掌

 

凍りの掌

凍りの掌

 

 「あとかたの街」を書かれたおざわゆきさんの作品。

あとかたの街が作者のお母様の実話を元にしたお話でしたが、こちらはお父様の実話を元にした、シベリア抑留の体験記のようです。

学徒出陣で満州に出兵した主人公が、敗戦、ソ連侵攻、そして捕虜になりシベリアの収容所に抑留され、なんとか命からがら日本に帰国するまでの事が書かれています。

「あとかたの街」でも同じような事を感じたのですが、この作者は、過酷過ぎる環境におかれた登場人物を過剰に飾らず、過剰にメッセージ性を込めず、ただひたすら淡々と描き続けることが特徴であると思います。

夏に満州に居たことから冬装備をまったくしていない中極寒のシベリアに抑留され、一日に数人亡くなり続けていくという、そんな過酷な環境が、淡々と描かれていて、逆に胸に迫るものがあります。

 

巨大な運命の前での人間の無力さ、「尊厳」などという言葉が無意味な理不尽さ、抑留された捕虜の立場でも発生する上下関係や人の心の驕り、慢心、裏切り、等々、人間の本質に迫った作品です。

 

最近、「新・映像の世紀」がNHKで放映され、過去の作品である「映像の世紀」も定期的に再放送がされており、戦中・戦後に何があったのか、ビジュアルで迫る作品群に触れる機会が我々も多くなっています。

そういった映像記憶ではフォローしきれない細かい事実、経緯、そして人間の心、そういったものの一端をのぞき見るためにも、そして二度とこのような悲劇を繰り返さないためにも、今の時代だからこそ読む作品のひとつだと思います。