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創意工夫、技、伝承

 

創意工夫 技 伝承 〜音楽の厨房から・2 サウンド・エンジニア 鈴木智雄

創意工夫 技 伝承 〜音楽の厨房から・2 サウンド・エンジニア 鈴木智雄

 

 CBSソニーの花型レコーディング・エンジニアだった鈴木智雄さんの自伝的書籍を読んでました。

オーディオに対する変態的(失礼)なこだわりなどが楽しめる本ですが、様々なミュージシャンに対する論評や裏エピソードなども満載で、音楽好きには結構たまらない構成になっていると思います。

その中に、さだまさしに対して述べている一節があり、その中で紹介されていた「さだクオリティー」という内容が面白かったので抜粋して引用します。

さだまさしさんとは二十年以上のお付き合いになって、録音を担当したオリジナル・アルバムも二十を超えた。その間毎年、一年のうちの数か月は録音のために一緒にいたことになる。彼と一緒に仕事をしていると、随所に『昨日の自分を越える』という意気込みを感じて、自分にとっても大きな刺激になるんだ。

(中略)

さださんはステージからも書籍からも胸を打つ言葉を多く発していて、(中略)心に残る言葉はここに書ききれないほどたくさんあるんだ。コンサート会場から帰宅するお客さんの顔を見ると皆さん本当に幸せな顔をしている。小説からは感動を与えられて勇気と元気が湧いてくる。そんな彼の心と『もっと上手になりたい』の精神は、周りを取り囲む人々をも引きずり込んで、スタッフそれぞれが本人同様かそれ以上に志を高く持たなければこのチームにはいられない。 

(中略)

2003年、さださんは大胆な挑戦をした。大ホールでたった一人で弾き語りのコンサートを行ったんだ。ギター一本で二十数曲を歌ってコンサートを完結させるということは、もしお客さんの前で失敗してもどこにも逃げ場がない。
(中略)

実はこの挑戦でまた一つさださんが変わった。もとから上手なギターの腕が格段に上がったんだよ。(中略)かつて聴いた事のない、美しく存在感のあるギターの音がスピーカーから飛び出してきたんだ。だから『演奏されたギターの音が素晴らしい』とさださんに伝えたら、『少し上手になったでしょ』と返された。どれだけ経験を積んでいても、新たな挑戦をする事がいかに大切かを目の当たりにさせて頂いたよ。

 さだまさしは、40年以上にもわたって一線級で活躍し続けている、それだけでも驚嘆すべきなのですが、ただ同じ事を続けていても長年支持されるわけではなく、根底にあるのは「もっと上手くなりたい」という精神であることは、彼の著作やコンサートでのパフォーマンスを見ているとよく感じます。

 

レコーディング・エンジニアらしく、音に対するこだわりあふれる逸話も書いてあり、個人的にはこの内容がとても興味深かったです。

さださんは、ご自身でボーカル用にノイマンのU47というマイクロホンを所有されていて、そのコンディションと音質は日本にあるU47の中でもベスト3に入るはずなんだ、なんでもキング・オブ・ポップスが来日した歳際、どういう手段を使ったのかはわからないけれど、日本中から信濃町スタジオにコンディションの良いU47が集められて、その時に『彼』が自分で使うための候補にしていた三本のうちの一本らしいよ。 

 「キング・オブ・ポップス」は、ひねりがなければマイケル・ジャクソンのことですね。

そして U47 のマイクについては今でも復刻版が手に入るみたいですね。コンサートなどでこの型を使っている事をあまり目にした記憶が無いので、レコーディングなどで使われているのでしょうか。

自分がさださんの録音をし始めた当初は、声を滑らかに聴かせるためにノイマンのM269を使っていた。その頃さださんは煙草を吸われていたんだけど、後に禁煙をされて声が劇的になめらかになったので、その声質にあわせてU47を使い始めたんだ。ただ、そのマイクロホンは高域にちょっとクセがあったので並行して別のものも探していた。

そんなある日、歴史あるスタジオのマイク・ロッカーの中に、へこみもない綺麗な状態なのに使われていないM49があるのを見つけて、理由を聞いてみたらどの電源ユニットを接続しても音が出ないから置いてあるって言うんだ 。
(中略)

思い切って隅々まで分解してパーツと接点を洗浄しつつ、より導通が良くなるように少し加工をした。ちょうどタイミング良くオークションにM49用の電源ユニットが出品されていたのを見つけて、それを買ってみた。
(中略)

記憶にあるM49より良い音がしたんだよ。だから、最近は歌の内容や音域によってさださんのU47とこのM49を使い分けているんだ

 U47 、M49 ともに1950年代に登場した真空管マイクです。

今のデジタルサウンド全盛の時代で、レコーディングやミックスダウンの処理はデジタルで行われている中、情報の入力部分についてはこだわりぬいた結果昔の技術がそのまま使われているというのが、胸が熱くなります。

さだまさしの最近の声独特の、低音域も高音域も野太く柔らかい、独特の声質は、こういった試行錯誤で生み出されているのだな、と感心をしました。

 

この kindle 版限定?の「音楽の厨房から」シリーズ

ヴィジョンへの旅路 〜音楽の厨房から・1 音楽プロデューサー 八野行恭

ヴィジョンへの旅路 〜音楽の厨房から・1 音楽プロデューサー 八野行恭

 

 は、本としての全体の体裁は非常に雑な感じですが、普段なかなか目にすることのないエンジニアのこだわりを感じさせる内容が書かれていて、とても面白いです。