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下流中年

 

下流中年 一億総貧困化の行方 (SB新書)

下流中年 一億総貧困化の行方 (SB新書)

 

現在の経済や社会制度の閉塞感を相まって、 「下流〜」というタイトルをつければ耳目に止まり、端的に言うと本が売れたりする傾向があるのでしょう。

当初はそういう感じのラベルの本でした。

「下流中年」というラベルですが、基本的には日本のバブル崩壊から派遣制度の自由化により賃金ダンピング圧力が強まったここ20年の間によく見聞きした、派遣の雇い止めや労働のブラック化、それらが引き起こす労働者の貧困について書かれています。

特に「中年」に絞った味付けがされているとは思えない本ですが、バブル後の就職氷河期を味わった現在30代~40代の人たちが中心のため、そのようなタイトルになった可能性を感じます。

 

特に本書の内容で新しい知見が得られることは少ないかもしれませんが、第四章の「ルポ・下流中年 12人のリアル」は、中年だけでなく若者の範疇に入る人も含まれていますが、どのように社会的困窮を感じるまで人が追い込まれてしまうのか、実例を交えて詳らかに詳細を記すことで、今の労働環境の問題点を浮き彫りにするという意味で良い章だったと思います。

特に、都合の良い労働調整弁として扱われる派遣労働者がブラック労働を強いられたり追い込まれたり病気になるケースが多く書かれ、会社のコンプライアンスに対する認識不足が最も大きな問題であると痛感をさせられます。

ただし、このルポについても、他の類書で見かけたことの有る内容の転載と思われるものが目立ち、手軽に作った本なんだなという印象を与えます。

 

それ以外の章については、この社会問題を前向きに変えていくための施策や方策について語られるというよりは、いわゆるロスジェネ世代の心境を代弁するような形で「俺たちは誰にも手助けされなかった可哀想な世代だ」と主張する文脈が多く見かけられました。気持ちはわかりますが、そのようなことだけ主張していても問題は解決しないように思えます。とくに第二章の赤木智弘さんという方の文章は情緒的すぎて客観性がなく、酷い文章でした。

 

あまり誠実な作りな本という風には受け止められなかったですが、とはいえ多くの日本人の貧困化やセーフティネットが不足している環境というものは深刻な社会問題ですので、啓発するという意味で何度でもこのような本が出てきて語られるべきだとは思います。

 

そして改めて、「下流〜」ラベルがついた本の中では、「下流喰い」は良書だったなと感じます。実際に消費者金融のあり方を改善させるきっかけになり、社会を良い方向に動かした本ですからね...。

下流喰い ――消費者金融の実態 (ちくま新書)

下流喰い ――消費者金融の実態 (ちくま新書)