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「夜露死苦現代詩」と「ヒップホップの詩人たち」

 

夜露死苦現代詩 (ちくま文庫)

夜露死苦現代詩 (ちくま文庫)

 

  形式的で権威化した「現代詩」の世界にはリアルが無くなり、それ以外の雑多な大衆文化の中にこそリアルな言葉がある。

といったアプローチで、筆者のエネルギッシュさ溢れる取材により様々な人・職業と、彼らが織りなす言葉についてまとめられた本が「夜露死苦現代詩」。

結構周囲で推す声が多かったので、僕も読んでみました。

体裁としては、おそらく雑誌の連載記事をまとめたものということで、若干散文的なまとまりの無さを感じますが、興味深いテーマも多かったです。

 

個人的に一番インパクトが残ったのは、死刑囚の人たちが書き残した辞世の句としての詩作の数々。取り返しの付かない罪を犯し、それでも罪を償おうとし、人生について深く見つめなおした人だからこそ書ける、飾りのない言葉は直接的で心に響きます。

「布団たたみ 雑巾しぼり 別れとす」

日々のささやかな営みに対する感謝なのか愛しさなのかそういった気持ちと、それらと決別する死刑囚の心境を表した句でしょうか。

「絵を 描いてみたい気がする 夏の空」

犯罪を犯し死刑囚になるまで字の読み書きができなかったとされる死刑囚の作。彼がまっとうな環境で生きていくことができたら、果たしてこのような犯罪を犯していたのだろうか...と誰しもにも感じさせる素朴な感情の吐露。

 

他にも、インターネットのエロ広告のライティングであったり、コンピュータ社会の普及により発達?した変換ミス・タイポの類について、はたまた玉置宏の話芸についてなど、多岐にわたり、現代におけるリアルな言葉について、まとめられています。

 

夜露死苦現代詩」の続編として、ヒップホップの世界を掘り下げた連載記事をまとめた書籍が「ヒップホップの詩人たち」です。

 

ヒップホップの詩人たち

ヒップホップの詩人たち

 

 ヒップホップについては僕はほとんど知識が無いのですが、ヒップホップのようにリズムに乗せてリリックやライムを載せていく自由度の高いスタイルは敷居も低いしそういう意味で多種多様な言葉の試行錯誤が生まれやすい環境だろうな、とは思ったりします。

実際は、その人の語彙の豊富さに左右されたり、韻を踏むことを求められる強制性から窮屈で不自然な言葉遣いに陥ることも多いように見えますが...

いずれにせよ、どのような詩の世界が繰り広げられているか期待をしていたのですが、この本に書かれているヒップホップ文化は、いわゆる夜の街をいりびたる半グレの人たちの文化で、それらの価値観になじめない人にとっては決して「リアル」な世界では無いように思えました。

「ヒップホップの詩人たち」は、ヒップホップ好きにはたまらない本かもしれませんが、「夜露死苦現代詩」のような何でもありの本ではなくちょっと読み手の対象を限定するかもしれません。

しかし、それは受け手の趣味や好みの話であり、こういう本の価値が下がるものでもないと思います。