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韓流経営LINE

 

韓流経営 LINE (扶桑社新書)

韓流経営 LINE (扶桑社新書)

 

 先日東証一部上場を果たしたLINE、その内幕を描いた本、ということのようです。

僕が見聞きした話と近しい話もあり、そうでない話もあり、ということで、外部から取材したこのような書籍ではなかなか真実にたどり着くのは難しいのではないかなというのが全体的な感想です。

 

第二章に「ビッグデータに触れない日本人」という項目がありますが、これは100%嘘というか取材不足だと思います。取材してみれば、いろいろなカンファレンスや勉強会で発表している人の顔を見るだけで、日本人がこの分野で関わっていたことはすぐに分かるので、取材陣の技術に対する理解度の低さや、あまり取材をしてない「こたつ記事」であることが、このくだりで概ね見透けてしまいます

もちろん、KAIST 出身の優秀なエンジニアの影響力は LINE の中では強いと思いますが、それはかれらが韓国人であるから、ではなく、「とびきり優秀だから」という事でしか無い気がします。そしてその中に伍して働いている日本人もいるし、その他多国籍な人もいる、というのが事実じゃないでしょうか。

 

上記の文脈で言うと、「ライブドアの遺伝子」という表現がされている章がありますがこの章も微妙な感じがします。広告営業に対するコミットメントはそれなりにあり、だからこそ出澤さんが社長になっている側面も有ると思いますが、しかしそれはまさに「ローカライズ担当」「ローカルビジネス担当」の職務な気がし、LINE というサービスを全体的に支えている人たちという感じがしません。それよりも 「元ライブドア」ではない LINE の日本人たちの方が、重要なポジションにいるような気もします。

ライブドアのエンジニアが創りだした LINE ブランドのサービスも存在すると思いますが、多くが品質の低さで撤退もしくは縮小を余儀なくされているようです。LINEプラス名義のサービスが偏重・偏愛されているみたいな書き方が別の章でされていますが、これについても「エンジニアとしての実力の差」「プロダクトの質の差」がLINE、LINEプラス、と元ライブドアのエンジニアの間で存在していただけ、という感じもします。

 

あと、LINE の海外展開の中で、韓国に対して行為的に思えている国では「韓国の〜」と語られ、日本が好意的に捉えられている国では「日本の〜」と語られていたことは、いろいろな国のニュースを読んでいればかなり初期の段階から普通の人でも気づくことだな、と思いました。世界で勝つためにそういう強かさは当然あってしかるべきで個人的には良くも悪くも思いませんが、いろいろな視点をもってして初めてこういう会社に対する正確な分析が出来るように思います。当書籍の参考文献はほぼ日本語、一部英字新聞が含まれていますが、そこまでアジア圏の各言語のニュースについては分析されてないようです。

 

こういう本を読んでいつももやもやしてしまうのは、このグローバル時代に「日本」と「外国」を分けて考えること、「日本発」ということにこだわりすぎていること、です。

いまやたいていの国家よりもグーグルやアップルなどのIT企業の巨人の方が国をまたいで多くの一般市民へ強い影響力を与えていますし、実際に影響力、資金力、人材、どれをとっても国家として無視することのできない存在になっています。そして旧態然とした価値観を持ち続ける国家というものに対して、今の若者、とくにエンジニア集団はどこまで信頼を寄せているのでしょうか。そして「日本」にこだわるよりも、世界的なトップランクの会社で自分の腕試しをすることを多くのエンジニアは志向するのではないでしょうか。

アジアを舞台に、世界を舞台に戦っている LINE の人たちを、こういうたぐいの本は大きくスポイルして矮小化してワイドショー的に語ってしまっているように見えます。

書籍としてあるべき姿は LINE はなぜアジアを席巻でき、世界では勝ちきれなかったか、という経営分析、もしくは技術的な優劣についての議論な気がしています。そして個人として、集団として、そういう領域もしくはそれ以上を目指すには何をすればよいのか。何をすべきなのか。そこを正視してくれないと、読後感としても得られるものは少ないように思えます。

 

最後に余談ですが、当書には元ライブドア関係者だった堀江氏のインタビューも掲載されていましたが、内容的には的を射ているようには見えず、彼はITの分野ではもう20世紀の残滓なんだな、と思わされました。

ただ、上場に関して「親子上場はダメでしょ」という正論を述べており、当書も経済書なのであればなぜそちらのテーマの方をもっと突き詰めなかったのか(ワイドショー的なネタに終止したのか)、ちょっと釈然としないところがあります。