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文化大革命によるモンゴル人大虐殺

 

狂暴国家中国の正体 (扶桑社新書)

狂暴国家中国の正体 (扶桑社新書)

 

週刊東洋経済で現代史についての特集が行われていて、その中の2ページ特集で楊海英さんの記事がありました。

語られているのは、掲題の内容。

もう少し内容を詳しくしりたいと思って、楊さんの著作のうち kindle で配信されていて手軽に手に入る上記の書籍を買ってみました。

文化大革命が起こった当時、内モンゴル自治区には150万人のモンゴル人が居て、その中で少なくとも34.6万人が拘束され、うち2.7万人が虐殺された、と。この数字は中国共産党が発表した少なめの数値で、実際は10万人を超えるモンゴル人が虐殺された、とのこと。

 

楊さんは中国語名を名乗ってはいますが内モンゴル自治区出身のモンゴル人で、文化大革命に際してのモンゴル人の虐殺についての研究については専門家のようです。

ただ上記書籍については、あまりにも手広い範囲の話題を扱い、当人の中国人憎しの感情が先走りすぎているきらいがあり、感情的でまとまりの無い書籍の印象です。

ただ、第一章だけは、上述の文革期のモンゴル人虐殺についてまとめられており、簡潔に事実を理解するには良い書籍だと思いました。

 

中国という国は地理的にも人口分布的にも広大で、かつ「共産党員」と「その他」という明確な格差社会であり、ひとことで「中国人」と表現することは全く適切ではないとは思っています。ただここでは書籍にも倣って「中国人」と呼称しますが、

中国人によるジェノサイドは文革期における自国民ならびにモンゴル人も含む少数民族にだけ行われたことではなく、現在進行系でもチベットや、寧夏回族自治区、新疆ウイグル地区でも非常に顕著に非人道的な行為が行われています。

なぜ、そのような行動を行うのか、思想的な背景として、上記の書籍では「文明的な中国人」と「野蛮な周辺住民」という構図があり、彼ら野蛮な人たちを「教育」「糺す」ために、西洋諸国的な人権を度外視した政策が行われ、特にはジェノサイドのようなことが行われる、と解説されています。

その背景には、いわゆる「中華思想」と、マルクス思想の「発展階段論」(原始社会から、最終的には共産主義者会に「階段状に発展していく」という論。らしい)が背景にある、とされています。遅れている周辺地区の人々を、中国が「教育」し、ときには過ちを「糺し」、そして正しい方向に「発展」させていく、と。そして、その対象は、当然のことながら「日本」も含まれている、と。

 

以上、書籍に書いてあることの引用に近い形で述べましたが、正直すべてに同意するのは難しい気がしています。

とはいえ、中国という広大な国の中で、何が行われてきて、いま何が起こっているのか、なかなか外からはうかがい知ることは難しいのも事実で、だからこそ無関心でいられる部分もあり、だからこそ妄想や憶測をベースにした陰謀論的なものも跋扈するのでしょう。

 

当書で示唆に富むな、と思った箇所は、中国に支配されている少数民族の中でも、高度に教育を受け諸外国にスポークスマン的な立ち位置で活動できる民族は、そうでない民族よりもより「正しい情報」を諸外国に伝えることができる、ということでした。

チベットなどはその代表で、相当な苦難におかれてはいますが、日本人含め諸外国のひとたちはその状況を認識することができる。

しかし、内モンゴル地区では、まず知的階層が虐殺の憂き目にあい、そういうふうに情報を発信したり、もしくは中国への反乱を企てるエリート層となることができる人材が極端に不足している、とのこと。

そういう意味で、スポークスマンとして、楊さんのような存在は非常に貴重で、かつ中国にとっては大変疎ましい存在なのだろうな、とは思います。

 

 

墓標なき草原(上) 内モンゴルにおける文化大革命・虐殺の記録

墓標なき草原(上) 内モンゴルにおける文化大革命・虐殺の記録

 

 

墓標なき草原(下) 内モンゴルにおける文化大革命・虐殺の記録

墓標なき草原(下) 内モンゴルにおける文化大革命・虐殺の記録