IR についての私見
IR (Integrated Resort) 法案の可決が昨年12月に行われ、IR といいながら実質カジノに関する法案のため、ギャンブルに対するアレルギー反応として様々意見が紛糾しているようです。
僕個人としては賛成でも反対でもなく無関心ですが、「カジノ」がそんなに経済的な起爆剤になるのか、という点についてはものすごく不明瞭な気がしますし、私もよくわかりません。
日本の既存ギャンブルは今どういうトレンドなのか、いろいろなニュースなどを引用しながら雑に整理して書いてみます。
週刊東洋経済の「競馬」の特集
2016年11月に発売された週刊東洋経済で「競馬の魔力」と題した特集が組まれていました。
およそバブルの時代からの凋落が激しいオールドエコノミーである、と元競馬ファンの僕でも認識していた競馬の世界ですが、最近は売上的に右肩上がりであるとのこと。
その要因として、インターネット経由で馬券を買う人が増えてきた、ということが挙げられています。JRA(中央競馬) もインターネット投票(IPAT)経由で馬券が買えますが、地方自治体が主催をする地方競馬と呼ばれる競馬レースについて、インターネット経由での売上が大きく、収益向上への影響が高いとのこと。
たしかに、世のニュースを見ていても、かなり景気の良い話を見かけます。
東京都競馬は東京都品川区の大井競馬場でレースを主催していることもあり地方競馬の中でもっとも売上規模が多い団体ですが、そういうメジャープレイヤーだけでなく昔は尻すぼみの激しい斜陽産業の典型だった佐賀競馬などの小規模な主催者も売上が右肩上がりで、あまつさえ黒字化すら達成している模様です。
存続している地方競馬の中でもっとも苦境に立たされているとされていた高知競馬ですら黒字化を達成しています。
昨年度の収支は1億6500万円の黒字
自場売得金は191億3千万円(前年比121.9%増)、他場売得金は64億3千万円(前年比105.7%増)とここ数年、インターネット販売増やJRA(中央競馬)レースの全日程販売などの要因で右肩上がりに売り上げを伸ばしており、昨年度は施設改善基金へ4.7億円積み立て後、1億6500万円の黒字見込みとなっています。
このような形で、競馬の売上が右肩上がりで増加しているようです。
主要因は、インターネット経由で馬券が買えるという手軽さ、が挙げられそうです。
パチンコ産業の最近
それでも、最近はアベノミクスによりあぶく銭を手にした人も少なくないでしょうから、全体的に回るお金が増えて、その分ギャンブルにお金を投じる人も増えただけではないか、という分析も可能です。
では、他の日本におけるギャンブル市場がどのような状況なのか概観します。
まずはパチンコ(パチンコはギャンブルではない、というような詭弁はここでは無視)
パチンコ業界には「日遊協」という業界団体があり、そこが毎年様々な資料を公開しています。以下は「パチンコ景気動向指数」という指数の調査結果。
過去1カ月の収益や売上、粗利などから判断される「全般的業況」は▲45.8ポイントから▲37.7ポイント(前回比8.1良化)まで改善したものの、18期連続でマイナスとなった。
(画像、文とも上記サイトより引用)
この指数がどこまで信頼に足るものかは分かりませんが、信じるとしたら、パチンコ業界の景気は右肩下がりが続き、アベノミクスとは無縁の状態なことが見て取れます。
競馬以外の公営ギャンブル
競馬以外の公営ギャンブルでも好況の兆しが見られる業界があります。
クイズみたいな問いかけになっている記事タイトルですが、復活した理由は「インターネット販売」に軸を傾けたから、ということらしいです。
ネットユーザーを対象とした場合、それまでの競輪レースは20時ころにはレースが終了してしまい終わりが早すぎる。とはいえ観客を入れたら近隣住民への影響を考えて調整が大変。であれば、インターネットに最適化し、観客を入れずにレースを開催すれば良い。
という流れで無観客競輪が実施され、かつ興行的にも成功している、というのがこの記事の内容です。
他にも以下のような記事で同種の内容が語られています。
昨今の公営ギャンブルの好調さは、アベノミクス効果というより、販売チャンネルをインターネットに最適化してきた努力の成果、ということが言えるように思えます。
スマフォゲームはパチンコのライバルなのか?
パチンコが尻すぼみの中、そのパイを奪うことで好調さを維持しているように思える業界が他にもあります。代表的なのがスマフォゲーム業界。
「スマフォの課金ゲームのライバルは、既存のコンソールゲームではなく、パチンコである」
という言説は今までも色々と語られていました。
--「コンシューマーゲームの市場を食っている」という意識はありますか?
岡本 それはよく言われますが、僕は絶対に食っていないと思います。コンシューマーのユーザーは、簡単にお金を出しません。僕が「食ってるな」と思うのは、パチンコ市場です。一回に何万円もお金を出すユーザーを抱えているのは、パチンコだけですよ。
ソーシャルゲームのユーザーは、もともとパチンコのお客さんだったと思います。だから、僕らも、そこを意識して食いにいっています。グイグイ食い込んでいるので。パチンコ業界は相当苦しいと思いますよ。
この辺について、実際にスマフォゲームがパチンコ市場のシェアを奪った、ということが定量的にわかる情報は見つけられていません。
少なくとも、
- 公営ギャンブル中心にお金を賭けるユーザーのインターネットシフトが進んでいること
- そして賭けられる額の総量も市場としては増えていること
- スマフォゲームは一時期の社会問題化された頃のようなべらぼうな粗利を生む業界ではなくなったかもしれないが、未だに莫大な金額が動く業界であること
ということは言えると思います。
スマフォゲーム、特に課金ゲームについても相当に依存性がありますし、お金を伴う遊戯のインターネットシフトの流れからも、スマフォゲームへのシフトが発生しても妥当であると思います。
カジノは人気がでるのか?
まだ実施法案が未整備なため、カジノがどのような形で実現されるのかについてもまだ不明瞭な点が多いです。
なのでなんともいえないのですが、上述のようにギャンブル、もしくは課金という行為についてのインターネットシフトが進んでいる中、その場に訪れることが強いられるIR としての「カジノ」という形態が、果たしてどこまで受け入れられるのかは正直疑問があります。
その場に訪れることで非日常的なことが味わえる空間、と定義しようとしたとき、その場に訪れようというモチベーションが上がるのは、やはり外国からの観光客、ということになりそうな気がしています。
なので巷間で言われているように、インバウンドを対象とした施設でありビジネスを想定するのが一番筋が良い気もします。
そしてたとえ日本人にも開放したとしても、オープン当初の目新しさにより一時期はお客が増えるかもしれませんが、そこまでユーザーの熱狂的な支持を集めるか、というと、忙しい日本人のライフスタイルから考えても物理的な移動、時間の拘束の制約が強くて難しいのではと思っています。
依存症について
それとは別に、依存症について。
私は父が重度のギャンブル中毒者だったため家計が困窮するなど辛い思いを味わった一人です(一番つらかったのは母でしょうが..)
そういう人間を近くで見て、「なぜこのように非合理的な行動にハマってしまうのだろう?」と疑問に思っていました。
その答えを探るために、以前以下のような本を読んだりしました。
ものすごく割愛して書くと、ギャンブルに「ハマる」人の頭の中では
- 脳内でベータエンドルフィンと呼ばれる脳内麻薬物質が分泌されている状態である、
- 脳内の報酬系が特定のプロセスを経て結果を得ることに対して過剰に反応する状態である
といった事が脳内で起こっている、と言われています。(当書の中ではともに仮説です)
また環境的な要因として
- 初心者が誰でも成功できる可能性があること
- 高い賭博性があること
- 誰でも容易に参加できる環境(インターネット経由で楽しめたり、すぐそばにお店があったり)や、のめり込む環境(消費者金融などで手軽にお金が借りられてしまう)が揃っていること
ということがのめり込んでしまう環境的な要因として挙げられています。
この辺はより研究が進み、医学的なアプローチで「病気」として分析が進み、対策手段の整理と実施が行われていくことを望みます。
そして、依存症については、物理的な移動という制約を伴うパチンコですらあそこまでの依存症患者を生み出してしまうことを真摯に受け止め、インターネットシフトなどの購入や参加への利便性の向上については絶対にどこかで歯止めをかけるべきだと思っています。
個人的な強い思いとしては、上述の公営ギャンブルについても、インターネットシフトにより売上が上がると単純に喜ぶのではなく、そのことにより今まで以上にギャンブル依存症が深刻になるリスクを考えるべきで、依存性患者の防止や治療のために対策がもっとなされるべきです。
そして、高年齢層に対象者が多い公営ギャンブルよりもまず何よりも先に、全年齢層に対象が広がっていてユーザー母数も市場も大きい現在のスマフォゲームに対する、法的な厳しい規制が求められる気がしています。
これらのはなしを前提に、IR の話も進んでいってほしいな、と思います。