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ヒットの崩壊

 

ヒットの崩壊 (講談社現代新書)

ヒットの崩壊 (講談社現代新書)

 

kindle積読していたのを、ようやく読んでみました。

読了感としては、かなり中途半端な本だな、という印象です。

 

CD が売れなくなり、デジタル配信も中途半端な中、ライブの収益がアーティストの稼ぎ頭になっている、というのは、ここ10年くらいずっと言われてきていた話です。

その内容について、この本は、業界人に対するインタビュー?と思われる内容の引用・抜粋で肉付けして語られている書籍です。

 

当書で引用されている内容は、さまざまなウェブメディアで見かけたことあるな?と思われる文章が多いのですが、特に引用元を明記してないのは、権利的に合意が得られているとしても、何か昨今話題になった DeNA の Welq とか Mery とかの問題と同質のものを感じてしまいます。

編集側が一方的に、自分の好む文脈に沿うように発言を切り貼りするのは、あまり文章を書く人として誠実な姿勢とは思えませんし、それが構成上やむを得ないのであればせめてインタビューの全文を読者がフォローアップできるように引用元のリファレンスを記載すべきではないかと、素人ながら思います。

 

個人的に当書で一番不満なのは、ヒットというものに対する数字的なもしくは学問的な定義や深掘りがされていないことです。

たとえば、BIGBANG など韓流アイドルは、昔の日本のように皆が知っているヒットソングは無いが、東京ドームツアーを何度も実施できるくらい人を集めている。だからライブがより重要になっている。

と語られていますが、それは過去を振り返った場合まちがいなく事実と思いますが、じゃあなぜ BIGBANG がそのようにヒット曲を抱えなくても興行が成功できるのか、その部分に踏み込まないと「ヒット」の本質にたどり着けるように思えません。

 

また、オリコンのデータが現在は形骸化してその時代の流行を表さなくなった、と書かれていますが、いみじくも音楽業界に関わる人であれば、それを今の時流にそった形で可視化する方法について多少の提言もあって良い気がします。既存の権力に遠慮してか、オリコンを精一杯肯定しつつ、他の(素人目線ではより意味のある)指標と思われるものについても歯切れの悪い記述になっています。主にジャニーズの配慮等々。

 

個人的には、「ヒット」の定義次第ではあるのですが、音楽業界の売上の中で、ファン一人あたりの必要金額について分析してみるべきなのでは?と読んでいて思いました。

ライブが盛況で、とくに音楽フェスの需要も増え、実際に興行として成功している、ということについて当書では書かれています。

しかし、フェスは、時間も拘束されますし、何よりもお金が決して安くなく、チケットだけでも数万円、滞在費等を含めるとさらに万単位のお金がかかります。

若いころに J-POP などの薫陶を受け、音楽に対する消費という習慣を身に付けている30代前後、もしくはそれよりも上の世代は、今のフェス文化にもお金を投じていると思います。それは、過去の J-POP の隆盛の時代を経た結果音楽に対する愛着や消費への戸惑いの無さを持ちつつ、働いている人が多いでしょうから手元にも自由なお金があるので投資できる、という側面があると思います。

つまりフェスなどのライブ中心の隆盛は、富を持てる人による盛り上がりで、昔のCD時代や、ラジオ・テレビで歌謡曲が流れていた時代にくらべて、一人あたりの客単価・消費金額は大きいぶん、極端に間口が狭まっている可能性があります。

今の、YouTube などで無料で音楽を聴くのが当たり前と感じている 10代の世代が、大人になったときに、果たして今の30代前後の人たちと同じように音楽業界に投資してくれるのでしょうか?

音楽の興行が「ライブ」に傾倒しすぎると、一部のお金に余裕がある御仁に対する、パイの少ない商売になり、結果として尻すぼみになってしまわないか、などと素人ながら不安に思ったりしてしまいます。

その一つの証左として、「大人フェス」などの70年代音楽(ファン世代は50歳~60歳)中心のイベントが大変数が増えていることが、個人的には気になります。もちろんこの世代は日本経済が傾く前になり上がれた世代で若者よりお金を持っていますし、この世代を中心に興行をすれば金銭的な成功は容易になるかもしれません。

もちろん業界とすれば興行が成功すればそれで良いのかもしれませんが、既存の実績者以外、10代などの若者が熱烈に支持する人たちが興行的な意味で成功できない世の中になったら、それは絶望でしかありません。

 

そういう近未来を解きほぐすためにも音楽業界を支える人たちの数、彼らが投じている一人あたりの金額、世代分布、等々、そういう分析が必要で、それらも無しに「ヒット」を分析しようとすると、有名人のインタビューの継ぎ接ぎや、主観、もしくは既存の権力におもねって構成するしか無くなります。

その結果が、当書のような内容、ということなのかなと思います。

 

もちろん、音楽ジャーナリストを自称しているだけあって業界に精通しているので、当書に書かれている、ある意味「感」というものも、比較的正鵠を射ている箇所があるようにも思えます。

 

個人的に、当書の楽しみ方は、この本に事例として書かれているような現象... 特典付きCDを買ったり、紹介されているパフォーマーのライブに参加したことがあったり、フェスに行っていたり...に関わった事がある人が、「そうそう」とシンパシーを感じる、というところなのかなと思います。

それは、極めてサブカル的な受容、という気もします。