山本直純と小澤征爾
「音楽のピラミッドがあるとしたら、オレ(山本直純)はその底辺を広げる仕事をするから、お前はヨーロッパへ行って頂点を目指せ。」
帯にもあるこのセリフの通り、日本におけるクラシックの大衆化に尽力をされた山本直純さんの功績を、盟友とも言える同世代の小澤征爾さんの功績と並べて振り返る書籍でした。
僕にとっての山本直純さんは、出会いは「一年生になったら」、少年期には合唱曲として有名な「おーい海!」や「ミュージックフェア」のテーマ曲という感じでしょうか。
「おーい海!」はとてもキレイで歌いやすいメロディラインで、歌うのが結構好きだった思い出があります。
そして、さだまさしを聴くようになってからは、過去を振り返る形で「親父の一番長い日」のきっかけを作った人という認識も持つようになりました。
僕は、生まれる前だったということもあり山本直純さんの全盛期の印象が無いので、逆に流行作家というイメージがなく、親しみやすい楽曲やクラシック曲を作り出した人というイメージが強いです。
この本は、そんな大衆的な作曲家であったと思われている山本直純さんが、いかに稀有な才能の持ち主で、いかに日本のクラシック界に貢献をしてきたかを熱い筆跡で語られています。書いている方もクラシックが本当にお好きなことが伝わり、熱量強く山本直純の偉業について様々なエピソードを基にまとめられています。
特に僕が知らなかったのは、山本直純さんは父親も優秀な音楽家で、大変裕福な家庭出身で、子供の頃から自由学園で音楽の英才教育を受けていた、ある意味ボンボンのご家庭出身なんだということ。
逆にそういう境遇出身だと思われてしまう小澤征爾さんが満州生まれの比較的一般家庭出身で地道な努力と苦労を重ねてきたことと比べると、世間のイメージとちょうど真逆な感じを受けてしまいます。
ある意味常識を壊すような自由奔放さを発揮している山本直純さんですが、環境が恵まれていて初めて得られる自由さなのかな、と感じたりもします。
個人的には、山本直純さんの功績というのは流行曲作家としてもクラシックの裾野を広げる活動においても十二分に多くの音楽好きに伝わっていると思っていますが、この本は繰り返し繰り返し「この凄さが伝わらないのは悔しい」と書かれています。同世代をともにした人たちにとっては僕達が想像するよりもはるかに山本直純さんへの思い入れが強く、「彼の凄さはこんなものではない」という思いが強いのだな、と感じるところがあります。
こういう方々がいるうちに、この本などを通じて、山本直純さんの功績やその思いというものが、より多くの人に正しく伝わると良いな、と思ったりします。