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組織は変われるか

 

組織は変われるか ― 経営トップから始まる「組織開発」
 

 

なんとは無しに購入した本ですが、抜群に面白かったです。

本の内容としては、組織の改革を専門的に行っている組織コンサルタントの著者が、今までの仕事の中で経験した実例をもとに旧態然とした組織変革をどのように行っていくか、そのメソッドや視点について解説した本です。内容はストーリー仕立てで書かれており、とても理解しやすいです。

特に、組織を変えたいと思っている組織のトップ、もしくは組織のトップに「そのようになってほしい」と思っている組織の一員が、組織改革の指南書として読むのに最適な本に思えます。

以下は、書籍の中で気になった箇所を、備忘録的にメモ書きしていきます。

やりがいとは何か

書籍の章タイトルは「リスクシナリオを提示する」となっている箇所です。

多忙感がやりがいにつながるのか、あるいは疲弊感となるのか、その分岐点は「孤立感」ではないかと思う。一体感の強い職場では、相互の支援や共通の達成感があるため、多忙感が個人の働きがい・やりがいを生み出しやすい。

それに対して、一体感の弱い職場では、個人が分断されており、相互の支援がなく、達成感も得づらいので、疲弊感を生みやすいのではないか。

働いている人が皆忙しそうにしているのに、実際のところ全然アウトパフォームできないということがあります。多くの場合、組織の上下のつながり、横のつながりが薄く、一体感がないため、目標へ向かう足取りが皆バラバラだったり、組織的な無駄が散在していて個人が不要な頑張りをしていたりという状況に陥っているように思います。

適応課題

課題には、「技術的問題」と「適応課題」があるとされています。

「技術的問題」とは、技術や経験で解決できる問題。

「適応課題」とは、技術や経験だけでは解決できず、当の本人が変化に適応しなければ前に進まない課題。具体的には、当事者が、対話を通じて従来の価値観や仕事のやり方の一部を手放し、試行錯誤を通じて新しい能力を育む必要がある。

この「技術的問題」「適応課題」というフレームワークは、『最難関のリーダーシップ』という書籍を記したロナルド・ハイフェッツという方が提唱したもののようです。

 

最難関のリーダーシップ――変革をやり遂げる意志とスキル

最難関のリーダーシップ――変革をやり遂げる意志とスキル

 

 

問題の本質を見極めず、成功体験に基づいて自分たちができそうな解決策に飛びついてしまうと、いくら時間と予算をかけても施策は空振りに終わる。的が見えないまま矢を放っているも同然である。

多くの組織でも、組織の問題を解決するときにわかりやすい解決策に飛びついてしまうことが多いように見えます。

たとえば、現場の案件がうまく管理できず、スケジュールや品質について守れない事象が頻発し、疲弊している現場があります。 この時の解決策として、「人を沢山採用すれば良い」という解決策は、皆が一番責任を負わずに提唱できる案です。

しかし本質的には、現場のマネジメント能力が不足していたり、上下のコミュニケーションが円滑にいっていなかったり、様々なレポートラインを飛び越して難癖をつけてくる特権的な立場の人が現場を混乱させていたり、組織力の無さが問題を引き起こしている、というのが問題の根源の場合もあります。

その場合、今までの組織のマネジメントのあり方を改めて、環境にあわせて最適化する必要があります。しかし今までのあり方に疑いをもたないマネジメント層は「忙しい=人が足りない」という皮相の問題として解決を図ろうとします。もちろん想像通り、本質を直視しないこのような対処は機能不全の組織をさらに拡大し症状を悪化させるだけで、たいていうまく行きません。

トップのメッセージ

トップは伝えているつもりだが、現場には伝わっていない。「伝える」と「伝わる」は一字違いだが、組織開発の現場で、よく直面する現象である。

たとえば「残業時間を減らそう」とトップから号令がかかる。しかし役員・本部長から降りてくる仕事の量は変わらない。(中略)玉の出どころ(役員・本部長)を押さえないかぎり、仕事は減らず、労働時間は一向に改善されない。トップのメッセージが、事実上、役員・本部長たちによって骨抜きにされてしまっているのだ。

トップのメッセージが伝わっていない、社長が何を考えていてどこに向かおうとしているのかわからない、という組織は基本的に機能不全か、高度にマニュアル化されているのだと思います。大半は前者です。

そして、トップの人が本気で組織開発をしたいと思っても、それだけでは組織が変わらず、当事者の人たちの意識を変える必要があることもここでは示唆しています。

当事者意識と経営への信頼

組織開発とは、「適応課題」に取り組むことである。現場だけに「なんとか工夫しろ!」と言って解決するような「技術的課題」とは異なる。(中略)問題に本気で取り組むなら、当事者全員が、自分自身の問題として向き合う必要があるのだ。

いわゆる現場の当事者意識とういのはよく語られるテーマです。ではこれを現場に植え付け、行動に移すためにはどういう環境が必要なのか。 当書では「経営への信頼」という言葉で表現しています。

組織における適応課題を、「経営への信頼」という視点で捉えなおすと、より課題が鮮明になる。組織課題とは、組織メンバーの誰もが、実は潜在的に気づいている課題だ。気づいていながら、誰も表立って課題として取り上げようとしない。

若手・中堅層は、「上が変えてくれない」「上が変えないと言うだろう」と言う。

一方、部長層・役員・経営トップは「下が問題を上げてこないと判断できない」と言う。要するに、お見合い状態なのだ。

「自分の声を経営が受け止めてくれる」という信頼が揺らいでいるから行動できないのだ。この事実を、経営トップ以下のマネジメント層が真摯に受け止め、信頼を育めるように自分を変えられるか。これが組織課題の核心なのである。

よく、トップの人が「何か問題があったらなんでも言ってこい」と言う事がありますが、上申を求めるだけでは下から有効な情報は上がってこないでしょう。それはつまり、トップや組織に対する「信頼がない」からなのだ、ということをこの文章はよく表しています。

一連の話がつながるわけですが、本質的な問題を認識し、それを皆で口に出し、改善策を皆が自分ごととして考えられるような、そんな場作りこそが、トップの人には求められるということなのだと思います。

 

まとめにかえて

この本では、上記のようなテーマや問題提起をもとに、具体的にどのように組織を変えるような場作りをしていくか、経営合宿やワークショップの開き方なども含めて微に入り細に入り解説があれており、極めて現実的で実践的な書籍と思います。