失敗の科学
原著のタイトルが「Black Box Thinking」なので、訳書ではもともとのタイトルとはだいぶ異なるものがつけられているように思えます。
ただ内容的に、本書は、失敗はどのようにして起こるのか、そして失敗からどのように学ぶのか、という事を主軸のテーマとしており、そういう意味で違和感はないです。
網羅的にまとめるほど本書を読み込めてないので、気になったテーマを五月雨的に書きます。
なお余談ですが、著者のマシュー・サイドは英国の元卓球オリンピック選手で、カットマンだったようです。
失敗を責め立てると、誰もが失敗を隠すようになる。
何か問題が発生したときに、起こってしまった原因を十分に究明せずに特定の人をスケープゴートにするような事をすると、皆「失敗」を恐れるようになる。
その結果起こるのは2つ。失敗をしていてもスケープゴートになるのを恐れるために、失敗を隠蔽する。そして、失敗しないように、曖昧なゴール、目的を設定するようになる。
本書では、医療事故を起こした病院や、幼児が悲運な死を遂げた際のソーシャルワーカーを例に、このエピソードが語られていました。
ソーシャルワーカーの例では、幼児が亡くなるのを防げなかった事に非があるとしてソーシャルワーカーたちが糾弾されました。責め立てる人はみな「これにより厳格で責任感をもった行動をとるようになるだろう」と信じ込んでいたようです。結果は、非難を恐れて、大量のソーシャルワーカーが退職をし、人員が足らなくなり、補うために質も低下し、結果として待っていたのは大幅なソーシャルワーカーのサービスレベルの低下でした。
失敗を懲罰的に扱うチームより、非難をしないチームのほうが、失敗は少ない
上記で触れたような話を、ある病院で人類学者の協力で調査したところ、掲題の結果が出たようです。
懲罰志向のチームでは、ミスの報告は少なかったが、実際には他のチームよりも多くのミスを犯していて、それが隠蔽されていた。
非難傾向が低いチームでは、ミスの報告数は多かったが、実際に犯したミスで比べてみると懲罰志向のチームより少なかった。
失敗をしても気にしない、対策を何もしなくても良い、ということは表しておらず、失敗が発生した時にそれを隠さず、皆で失敗に向き合い、それをなくすためにはどのようにしたら良いかを考える組織のほうが、結果的には失敗が減る、ということのようです。
上下関係がチームワークを崩壊させる
本書では、圧倒的な経験と技術を持つベテラン医師が起こした医療事故、卓越した技術をもったベテラン操縦士が起こした飛行機事故について触れられています。
どちらも、事故の予兆を周りは感じていて、「こうしたほうが良いのでは」と皆思ってはいたものの、あまりに目上の人に対して遠慮をしてしまい、強く進言できなかったり、喉の奥にしまいこんでしまったようです。その結果、本来起こるべきではない重大な事故が起こってしまったようです。
絶対的な権力者が君臨し、かつその人が融和的ではなく強圧的に物事に接するような振る舞いをする職場だと、たとえその人が明らかに間違ったことを言っていても、まわりは諌めることも能わず、結果として新卒社員でもしないようなくだらない理由でびっくりするくらいの失敗をすることがある、と警告しているように思えます。
プロジェクトの6段階
理論的ではなく情緒的な人たちによって引き起こされる、プロジェクトのたどる道のり、として以下が提示されていました。
- 期待
- 幻滅
- パニック
- 犯人探し
- 無実の人を処罰
- 無関係な人を報奨
本文ではそこまで明確に上記に基づくストーリーは記載されてませんでした。
何か期待にそぐわない事が起こったとき、何が起こったかをきちんと分析しないで行動すると、スケープゴートとなる犯人を探す事をしてしまい、結果として単純なストーリーで犯人扱いしやすい人が犯人扱いとなり、それに巻き込まれなかったり過度に非難を浴びせる人が英雄扱いされる、という事のように咀嚼しました。
日本の最近の政治ショーではよく見る光景に思えます。
固定型マインドセットと成長型マインドセット
固定型マインドセットの人は、失敗をした時に、「自分に才能がない証拠」と考えるようです。
成長型マインドセットの人は、失敗をした時に、「失敗は自分の力を伸ばす上で欠かせないもの」と考えるようです。
固定型マインドセットの組織では、失敗や、それにともなうミスや非難を恐れて、失敗を報告しない事が多くなるようです。そして、「他の社員を出し抜く行為が多い」「作業の手抜きが頻繁に行われる」「情報の隠蔽がたびたび行われる」という傾向があるようです。
成長型マインドセットの組織では、誠実で協力的な組織文化が浸透しており、「リスクを犯すことが奨励される」「失敗しても非難されない」「失敗は学習の機会でありいずれ付加価値にとなる」「革新的に考えることが奨励され、創造力が歓迎される」という傾向があるようです。
どちらの組織のほうが価値を多く生み出すかは、言うまでもないだろう、と本書では結ばれています。