データ階層社会のその先に、を考えるのに役立つ二冊。
2018年12月1日号の東洋経済の特集は「データ階層社会」でした。
アリババの芝麻信用や、日本でも取り組みが増えてきた情報銀行などの個人の格付けをビッグデータ・AIの力で管理する仕組みが普及する事により訪れる未来について、主に悲観的な内容を中心に描かれてました。
この特集記事もなかなか読み応えがありました(過去の雑誌なのでバックナンバーを入手する必要がありますが)
ここでは、その特集の中で引用されていた書籍二冊について、かんたんにメモを残しておきます。
空いた時間を使って3日くらいかけて読みました。
読後感としては、テクノロジーの進化により何が起こるか、その思索を深めるためにも、業界に関わる人間としては目を通しておいても損は無いかなと思います。
星新一『声の網』
1970年に書かれたらしい長編SF。
今風に表現すると、高度なコンピュータの監視システム/推薦システムにより人々の生活が監視され、問題が起こりそうになった時に「コンピュータが考える」ふさわしい未来に誘導される、という人々の様が描かれてました。
人間が意識する/しないに関わらずコンピュータに従う事が強制され、従うことで皆がほどほどに幸せで、日々平和に過ごせる姿が描かれているのに、読後感としては「ディストピア」としか捉えられない薄気味悪さがある本です。
そして、50年前に書かれた本だというのに、今読んでもまったく違和感なく「近未来」の姿として捉えることができ、星新一の彗眼・想像力には驚かされます。
ユヴァル・ノア・ハラリ『ホモ・デウス』
『サピエンス全史』の著者の新作。
サピエンス全史は人類の歴史を紐解いていましたが、ホモ・デウスではコンピュータテクノロジーや生命科学の発展によりこれから人類がどのような道を歩むかについて描かれています。
サピエンス全史は極めて知的な本でしたが、ホモ・デウスも600ページ近くあるのに無駄な一文が少なく、極めて情報量の濃い本でした。
ホモ・デウスの本全体としては「宗教」「神」をどう捉えるかがキーになりますが、テクノロジー関連についての言及で要点を抜粋すると以下のような感じです。
- コンピュータアルゴリズムの発展により人間の単純作業が奪われ、コンピュータに代替できないごく少数のエリートと、「無用者階級」に人類は分断される。かつ高度なアルゴリズムは一部の権力者・企業により独占される。
- 生命科学の発展により、医学のトレンドは「病気を治す」から「人間の能力をアップグレード」する方向に進化する。前者は人類全体へ恩恵を与えるが、後者は一部のエリートにより独占され、恩恵を受けられない人との圧倒的な格差が生まれる。
- それらにより、人類史上かつてない階層社会が生まれる。
我々は日々、GAFAや中国の企業がビッグデータとAIを駆使して人類を超越するかのような社会を築きつつあるのを眺めています。
そういう肌体験も加味して、『ホモ・デウス』書かれている事はもうすでに現実世界で部分的に実現されているように思え、そら恐ろしく感じました。