道歌入門
作者の岡本彰夫さんは、かつて春日大社の宮司を務められていた方のようです。
「道歌(みちうた)」とは、道徳的な和歌、を指すとのことです。
岡本さんが、「お説教」の中で語られた道歌に心惹かれたものの、書籍などでまとまって収蔵されているものが少ないことに一念発起してこのような書籍を上梓したようです。
心惹かれた道歌としては、以下の歌が紹介されていました。
欲深き 人の心と 降る雪は 積もるにつけて 道を忘るる
日常になぞらえた例えとして理解が平易ですし、それなりに深みを感じる歌ですね。
このような道歌が多数収蔵されているのが当書ですが、かなり易しい言葉で書かれている本なので、小中学生でも内容が理解できるくらい平易だと思います。また、見る人によっては人生の真理というよりは通俗的な道徳だなと感じるものもあるとは思います。
それでも、拾い読んでいると、心に残る一首、というものにたどり着ける本かなと思います。
個人的に気に入った歌をいくつか引用しておきます。
へつらはず おごることなく 争はず 欲をはなれて 義理をあんぜよ
「義理をあんぜよ」は、義理を大切に、という程度の意味のようです。
諂う事も奢る事もなく、そして他者と争わないようにいるためには、自分が力を付け自分に自信を持ち、常に求められる以上の価値を生み出していくことが必要になります。日々努力を続けるための心がけ、という感じですね。
幾度か 思ひ定めて かはるらむ 頼むまじきは 心なりけり
人の心が一番信頼できない、移ろいやすい、という歌です。
見む人の ためにはあらで 奥山に おのが誠を 咲く桜かな
桜は、見てくれる人がいるから咲くんじゃないんだよ。奥山に誰にも知れずひっそりと咲く桜も、自分が咲きたいから、咲くんだよ、という歌。今回読んだ中で、一番好きな歌です。
世の中は 人は知らねど 科あれば 我が身を責むる 我が心かな
自分が行ってしまった悪いこと、秘密の罪科は、誰に知られずとも、自分は知っている。悪いことをしてしまったら、どこかで誰かが必ず見ている、だって自分が見ているでしょ、と諌める歌です。
骨かくす 皮には誰も 迷ひけむ 美人といふも 皮のわざなり
顔立ちの美しい人に惑いがちだけど、その美人を作り出すのも所詮は皮膚の仕業ですよ。だから内面を大事にしましょうよ、という歌です。「皮」という表現に切り捨ててるケレン味の無さ、シャレの効いている感じが良いですね。
はるばると あだちが原へ ゆかずとも こころのうちに 鬼こもるなり
安達ケ原は、鬼の住処、と呼ばれている場所のようです。あえてそんなところに出向かなくても、鬼は人の心に住んでいるよ、という歌。