アイ

会社の老化は止められない

 

 数ヶ月前に読んだ本ですが、ふと内容を思い出したりしました。

この本は、アカデミックな知見というより、網羅的でない多少偏った視点・ヒューリスティックな視点で会社としてのあるある話をまとめているような本だと思います。

とはいえ、個々のエピソードには、首肯できるような一節もそれなりに存在しているように見えます。

 

個人的に一番納得感が強い表現は「不可逆プロセス」。

変化は、はじめ何もない状態であれば選択肢も多く、かつ一方向への変化は起こしやすい。しかし変化を起こしたあと、ケースによっては簡単にはもとに戻ることのできない、「覆水盆に返らず」的な変化が起こることがあり、それを当書では「不可逆プロセス」と表現しています。

たとえば、新幹線「のぞみ」は昔は東京から出たら基本名古屋までノンストップ、もしくは稀に名古屋すら止まらない速達性重視の路線だったが、現在では品川や新横浜に止まるようになり、いちど止める決断をするとそれを元に戻すことは難しい、という例が挙げられていました。

 

当書では、組織というある意味擬人化・抽象化された存在に対してのみならず、そこに属する個々人についても「不可逆」であるとしています。同じ会社に居続けたとしても、人間の心理は、常に同じであり続けることは無い、ということです。

人間の心理の不可逆性、非対称性について、当書では以下のようなものを挙げていました。

  • それまでの習慣に固執する
  • 一度得たものは手放せない
  • 期待値ではなく、リスクの大きさに反応する
  • 低きに流れる
  • 手段が目的化する
  • 縄張り意識を持つ
  • 知れば知るほど近視眼的になる
  • 自分中心に考える

上記の項目について詳細な解説も本の中では付記されています。

 

個人的な経験も踏まえて、上記のようなお題目を出されると、色々と思い至るところがあったりします。

 

僕も、何もないところから、その時自分で考えうる最良のベストプラクティスをひねり出して新しい習慣なりルール、方針を作り出すことがそれなりに経験としてありました。

それは万全である、パーフェクトであるとは思っておらず、定期的に棚卸しをしてよりよいものに作り変えていくべきものです。

しかし、作り出した当人のそういう意識とは裏腹に、他の人達のほうがなぜか、そういう習慣を守りたがるインセンティブが働くことが、多いように見えます。

 

また、本質的な価値を生み出すための行動をしなければいけないときに、社長など本当の意味で会社の判断をする人やモチベーションの高い現場の人ほど、自分で責任を負いリスクを背負ってそういう行動を取ることがあります。これを妨げる妨害者は、ほとんどの多くのケースで、数字的な責任を負わされている中間管理職です。

こういう人が出てくると、数値で表すことが容易な、過去の習慣に引きづられた、今では価値を失いつつある価値観に引きづられ、目の前のリスク回避のために本当に起こさなければいけない本質的な変化の芽を摘み取ってしまいます。

 

などなど、様々に、当書が挙げている問題提起に対して、自分の経験に即していろいろと実例も交えて反芻することが多い、そんな本ではあると思いました。

多くの同種の経済書が、組織を擬人的にもしくは抽象的に捉え、マクロな視点で俯瞰するものが多い中、中にいる個人個人にフォーカスを当てるところが、泥臭さも感じますが、実に迫る部分もあるのかな、と思います。 

 

この本には、「勘違い社員」という表現もありました。

草創期の人たちの努力により何もないところからものが作り上げられ、結果としてブランド価値が確立したあと、その後に入社するのは「ブランド価値」に惹かれた社員が多くなります。その人達は、自分たちが作り上げたわけではない価値に依拠して自分を飾り、自尊心を満足させる。そんな人達のことが会社の老化を促進させる存在である、ということも書いてありました。

 

概ね、目に見える成果、というものは、先人が畑を耕し、せっせと芽を植えて、長い時間がかかった結果ようやく芽吹いたものです。

その、今現在目に見える成果は、何年も前からの積み重ねによりようやく萌芽したもので、その価値を作り出したのは数年前の人たちの努力です。

しかし、よく組織の中で目にすることは、今目の前にある成果を、今そこに居る人たちの成果と勘違いすること。ある意味掠め取るように自分たちの手柄にすること。

そして、今、そこにいる人達が、畑を耕すことを忘れて、ある意味焼き畑農業的に先人の資産を浪費することに終始し、将来的な価値を生み出す施策を忘れることもよく見かけます。

そういう人のことを、当書では「寄生虫的」というような表現をしていましたが、いわゆるフリーライダーという人たちは、こういうような人たちなのだろうな、と思ったりします。