アイ

ikzo ブーム後の名曲

www.youtube.com

ニコニコ動画ikzo マッシュアップ動画が大流行してから、もう10年になるんですね。

僕もゼロ年代はこういう動画を面白おかしく見てました。

 

数年で流行は去ってしまいましたが、名もない有能Pの腕試しの場として今も機能してるのだなと、ブームが去った後に公開されたと思わしき動画を振り返ってみて感じました。

今までの研鑽やノウハウの蓄積があってか、最近の作品の方がスタイリッシュでよくできた作品が多い印象があります。

 

www.youtube.com

君の名は。ikzo の餌食になってました。2016年以降ですね。

スタイリッシュでエモーショナルな RADWINPS のサウンドにも ikzo の合いの手は完璧にフィットしていて、相変わらずの汎用性を感じさせます。

サビは勢いだけで突き進んでいる感じがあります。

 

www.youtube.com

PPAP も餌食になってました。2016年の作品。

まあ勢いだけですね(笑)

 

www.youtube.com

曲は2016年発表ですね。

いくらサチモスがスタイリッシュを気取っても、日本的な合いの手のリズムの前には蹂躙されてしまう運命です。

STAY TUNE in 農協 Friday night」というフレーズがシンクロしすぎていて悶絶しそうです。

 

www.youtube.com

「あの人は今」的な存在の江南スタイル。原曲は2012年ですね。

ikzo に侵食されすぎてもはや原曲がほとんど残ってない。正直僕みたいな凡人では及びつかない、大脳皮質に直接ドーパミンを注射で注入するようなトランス感を与えてくれる作品です。

 

www.youtube.com

行くぜっ!怪盗少女」は2010年に発表された曲らしいので、僕がブーム時に見逃した曲かもしれません。

この曲がすごいのは、モノノフたちのコールを ikzo ラップで表現していること。単純に合いの手を入れてるだけでなく内容もシンクロしてて、凄まじい完成度を感じます。

 

www.youtube.com

原曲は2012年ころ。僕は本当にアニメ見ないので偽物語自体も西尾維新の原作は知ってましたがアニメ初めてみました。

個人的にはこの作品は、ikzo 作品の最高傑作の一つだと思っています。

「おら東京さ行くだ」のテンポを無理に変えずに原曲とほぼ同じノリでマッシュアップできているのでとても素敵だし、お互いの曲が合いの手を入れあってシンクロしているのは奇跡的です。この作品を見た後原曲を見ると、本当に物足りなく感じます。それだけお互いの掛け合いが自然です。

 

 

 

キャッシュレス

www.nikkei.com

世界に比べて日本のキャッシュレス導入が遅れていると、方々で指摘されています。

個人的な話をすると、僕は日常生活で一部を除いてほぼキャッシュレスな生活をしているので、日本はインフラはそこそこ整っていて、ただ消費者マインドとして使用を手控えているのかなという印象を持ちます。

一部は、外食ですね。チェーン店とかではクレジット払いや電子マネーに対応しているところも多いですが、個人のお店などではほぼ現金のみの対応ところが多く、この部分だけは妥協して生活しています。

 

ニッセイの基礎研究所が昨年末にキャッシュレスについての特集記事を3回に分けて掲載していました。

www.nli-research.co.jp

www.nli-research.co.jp

www.nli-research.co.jp

 

この中で、消費者側の視点で、クレジットカードや電子マネーを使わずに現金を使う理由が「課題」として3点挙げられていました。

 

(1)「利用する機会や必要がないから」

現金で十分だという話と、個人の飲食店などを代表にクレジットカード決済に対応してない店がそこそこあるから、という理由が背景にあるのかなと思います。

現金と、クレジットカードや電子マネーが併用して使える環境だとした場合、基本的には消費者マインドの問題になり、経済合理性とは少し離れた話になるのかなと思います。

一般的によく言われていますが、クレジットカードや電子マネーはそれぞれ独自のポイント制度があり、消費をすればするほどポイントが貯まるため、クレジットカードや電子マネーが使える環境下であればそちらを使用したほうが金銭的メリットは大きいケースが多いです。

ニッセイの記事にもありましたが、

一方で、同じ調査において、クレジットカードを使用する理由として「ポイントを貯めるため」「支払い金額の大きさ」「手もちの現金額」「支払いの便利さ、早さ」も挙げられている。よって、クレジットカード決済に対して、ポイント等の経済利得だけではなく決済の利便性も重視されているようである。 

金銭的メリット以外にも支払いが楽、という点もあり、キャッシュレス生活にしたほうが消費者にメリットになることが多いのではないかなと感じさせます。

 

(2)「使いすぎてしまうかもしれないから」

僕はこの点については懐疑的です。というか消費者の思い込みに依拠した話でしか無いなと思い、ちょっともったいない気がしています。

月に一回明細が送られてくるまで利用額がわからなかった数十年前はともかく、今はリアルタイムで Web 上から利用明細が確認できますし、マネーフォワードや Zaim などの資産管理・家計簿アプリを用いるとその月に使った額が日単位で網羅的に確認できます。

家計簿アプリを日常的に使っていると、クレジットカードや電子マネーで決済した方が漏れなく家計簿アプリに連動してくれて、支出が発生した時には丁寧に push 通知までしてくれます。なので支出の把握漏れがなくなるため、現金を用いているときよりも「使いすぎてしまうかもしれない」という不安がありません。

どちらかというと現金決済の方がアプリの登録忘れが発生しやすいので、毎月の予算と比べて今月どのくらい使っているか等の把握が難しくなり、結果としてお金を使いすぎてしまう不安を個人的には感じます。

もちろんそれら諸々の環境が整う前は、「クレジットカードに支払いを依存している人≒お金の管理がゆるい人」というイメージを私も抱いていましたが、今はどちらかというと、現金決済を優先している人に対して「お金の管理がゆるい人」というイメージを持ちます。

 

(3)「現金以外で支払うことに不安」「盗難や紛失にあうかもしれないから」 

盗難という意味では、現金の方が盗まれやすいなと感じています。

クレジットカードの場合、番号が漏洩して他人に使われても、普段の購買パターンと異なる買い物が行われた場合クレジットカード会社から連絡が入り取引を止めてくれたりするので、個人的にはクレジットカードの方が安心感はあります。

以前、職場の人に財布を漁られ、カード番号を盗まれてECサイトで数十万円くらい購入された事がありましたが、即座にカード会社から異常検知した旨の連絡とカード停止の手続きをしてくれました。

でも、現金の場合、札を抜かれてしまうとその追跡は難しく、そういう意味で現金の方が盗難や紛失のリスクはずっと高いなと思います。

 

ただ、この記事でも書かれていたプライバシーという点では、確かにその不安は妥当なところもあるなと思います。

僕が今一番感じている現金の最大のメリットは「匿名性」だと思っています。現金決済する限り、基本的には「誰が」「誰に」お金を支払ったかという情報はキャッシュに直接紐づく形で保存されません。しかしクレジットカードや電子マネーの場合、そのお金の流れの情報は必ず保存され不可分になります。

ときには、何に使ったかを誰にも詮索されたくない商売行動もあったりしますし、そういう意味で「匿名性」を保った支払い方法というのは個人的にも残存してほしいなという思いもあります。

 

ただ、その匿名性が故に、莫大な地下経済マネーが発生している、という側面もあります。

日本「地下経済」白書(ノーカット版)―闇に蠢く23兆円の実態 (祥伝社黄金文庫)
 

ほぼタイトルだけの引用ですが、 10年前の試算で国の管轄外となっている経済活動が23兆円あるとされています。いろいろな手段があるのでしょうが、これらのやり取りの一つとして現金の手渡しで行われているとしたら、詳細なやりとりの特定も難度が高いでしょう。

 

モディ政権下のインドで高額紙幣を強制的に廃止したというニュースが昨年ありましたが、これもキャッシュレス社会へ強制的に移行することで地下経済の不透明な金銭のやり取りをなくしたいという政府の思惑があったようです。

blogs.itmedia.co.jp

 

国の為政者は税金の取りっぱぐれをなくしたいがために、どの国でもキャッシュレス化し電子的に決済情報を管理できるようにすることを望んでいるように見えます。かく言う日本も、一万円札などの高額紙幣を廃止するという動きがあるとかないとか。

nikkan-spa.jp

 

個人的には、出来る限り世の中が便利になってほしいなとは思っているので、キャッシュレス社会が進んでいってくれると良いなという思いは、基本線としてあります。

ただしプライバシーについては、現金の匿名性に依拠しなくても良いよう、キャッシュレスな決済情報についてもより一層保証されるような国の制度と、それを保証する第三者機関などの整備が行われてほしいなと思っています。すべて国が監視し筒抜けな世の中というのも、とても生き辛く感じるので。

 

鉄道が変えた社寺参詣

 

鉄道が変えた社寺参詣―初詣は鉄道とともに生まれ育った (交通新聞社新書)

鉄道が変えた社寺参詣―初詣は鉄道とともに生まれ育った (交通新聞社新書)

 

 年末年始はこちらの本を読んでいて、特に初詣に行くこともありませんでした。

交通新聞社という出版社は鉄道に関するとてもマニアックな書籍を何冊も出している優良出版社ですが、この本も鉄道の発展を軸に寺社仏閣への参詣のありかたの変化についてまとめられています。

 

この本で取り扱われている内容はほぼすべて「初詣」について。

初詣のような形で正月に社寺参詣をするのは伝統的な行事であると我々は思い込んでいますが、実際に初詣という単語が用いられたのは当書によると明治20年ころらしいです。

(初出は明治18年、川崎大師の正月参詣を表す語として用いられたもの、とのこと)

そのときに何があったかというと、明治以降の西洋化の一端として、鉄道会社の発展、そしてそれによる都市間移動の簡便化。江戸時代から東海道の脇にある有名社寺だった川崎大師も、当時は基本的には徒歩で通うしかなくそこまで気軽に出かけられるものではなかったようです。それが鉄道の開通により短時間(新橋-川崎間26分)で移動できるようになり、観光的な意味も含めて郊外の社寺への正月参詣が人気を集めるようになったようです。

 

そこで、各鉄道会社も、PR に力を入れ始めます。

江戸時代までは「恵方詣」と呼ばれる、その年の恵方の方角にある社寺に正月参詣するという習慣が一般的だったようです。しかし鉄道の普及により、各鉄道会社が恵方とは関係なく自社の沿線にある社寺参詣を PR するようになりました。そのこともあり「恵方によらず、正月に社寺に参詣する」という「初詣」の習慣が受け入れられるようになり、定着に至ったようです。

そして、初詣の普及には、鉄道会社同士の PR 合戦も大きな影響を与えたようです。

有名なのは、成田山新勝寺。現在はともに JR となっている成田鉄道(我孫子回り)と総武鉄道(千葉回り)で激しい顧客獲得競争を行い、列車の増便や、当時としては珍しい喫茶室付きの列車の導入など参詣客を取り込む施策を数々導入し、結果として人気も加熱していったようです。その他にも京成電鉄の参入など各社入り乱れての競争が行われました。

競争が激しくなれば、サービスも良くなり、その結果人気も出る、ということで、成田山新勝寺はその名残もあってか現代でも正月参詣客日本一を誇る神社となりました。これは、鉄道の発展と、その激しい PR 合戦が生み出したもの、と本書ではまとめられています。

 

感想として、我々が伝統と認識しているものも実はそこまでの歴史が無いものも多く、その当時の流行が様々な要因で定着したものが少なくないのだな、と感じます。

そして、一度定着してしまった習慣というのは、その本質的な意味や経緯などをあまり深く考えず、後世の人は従ってしまうものなんだな、ということも感じます。

これらは、初詣に関わらず、あらゆることで同じようなことが存在していそうです。

 

そういう意味でも、色々と示唆を与えてくれる書籍だな、と感じる年末年始でした。

 

Microsoft のリーダーシップ

 

Hit Refresh(ヒット リフレッシュ) マイクロソフト再興とテクノロジーの未来

Hit Refresh(ヒット リフレッシュ) マイクロソフト再興とテクノロジーの未来

 

Microsoft 現 CEO のナディア氏の自叙伝を読んでいます。

Microsoft は一部の人にとっては Office 製品をいまだに扱う IT 業界におけるオールドエコノミーの代表として侮蔑の気持ちも込めて語られることの多い会社ですが、クラウド事業やAR/VR(MR)での存在感も日に日に増し、日々変化が激しい IT 業界の中でも存在感をいまだ失わない稀有な存在でもあります。

その秘訣みたいなものを探る目的で読み始めたのですが、本の内容としてはナディア氏の生い立ちや、大企業化した組織をいかに立て直したか、という内容が主になっているように思います。

 

そのなかで、興味深かった内容が、Microsoft におけるリーダーシップの原則についての記述。

以前、Microsoft の人に軽くこの辺の話を聴いたことがあったのですが、あらためて並べてみると組織の中でのリーダーシップの取り方のベストプラクティスとして参考になることが多いな、と感じます。

 

第一に、一緒に働く人に明確な指針を与える。これは、リーダーが常に心がけるべき基本事項の一つだ。明確な指針を与えるには、複雑な集合体をまとめなければいけない。

それはつまり、数多くのノイズの中から真の信号を識別し、内部や外部のさまざまな声から一つのメッセージを紡ぎ出す、ということだ。

 

第二に、自分のチームだけでなく、会社全体に活力を生み出す。自分の部署に専念するだけでは不十分だ。リーダーは、よい時も悪い時も、楽観的な考えを広め、創造性を刺激し、熱意を分かち合い、成長を引き起こすように努めなければならない。

 

第三に、自ら行動し、成功を実現させる方法を見いだす。

 

「他人を成長させることが最も評価される」という組織は、性善説的にまとまれば互助作用的に皆で助け合える組織になりそうな気がしていて、数名のスーパーマンにより運営される組織よりも緊密な組織になりそうな気がします。

ただし能力があるスタンドプレイヤーが増えてくると価値観やモラルが崩壊するので、現実的に成り立たせることがどれくらい可能なのかは、なんとも言えません。

 

ただ、個人として、目指すべき方向として非常に理想的ではあるなと思い、今後の参考にしたいと思います。

 

徹底検証「森友・加計事件」――朝日新聞による戦後最大級の報道犯罪

 

 この本の著者である小川栄太郎氏は、Wikipdia から引用する過去の著作からもわかるように、非常に安倍総理と距離が近い作家です。

小川榮太郎 - Wikipedia

『約束の日 安倍晋三試論』(2012年、幻冬舎、のち文庫)
『国家の命運 安倍政権奇跡のドキュメント』(2013年、幻冬舎、ISBN 9784344024014)
『『永遠の0』と日本人』(2013年、幻冬舎新書〉、ISBN 9784344983328)
『最後の勝機 救国政権の下で、日本国民は何を考え、どう戦うべきか』(2014年、PHP研究所、ISBN 9784569812786)
『一気に読める「戦争」の昭和史 1937-1945』(2015年、ベストセラーズ、ISBN 9784584136676)
小林秀雄の後の二十一章』(2015年、幻冬舎、ISBN 9784344028067)
天皇の平和九条の平和 安倍時代の論点』(2017年9月、産経新聞出版、ISBN 9784819113182)
『徹底検証「森友・加計事件」 朝日新聞による戦後最大級の報道犯罪』(2017年10月、飛鳥新社、ISBN 9784864105743)

放送法遵守を求める視聴者の会」への関わりや、憲法改正に対する立場などからも、安倍総理と考えが近い人であることが伺えます。

 

じゃあ、安倍総理のお仲間が書いた本だからこの本は偏った思考で埋め尽くされた読む価値が無い本なのか、というと、一切そういうことは無いです。

たとえば、自分の家族や大事な友人が理不尽なバッシングにあったり、職場でのパワハラや学校でのいじめなどハラスメントにあっているときに、それを守ろうとした場合、子供じみた罵詈雑言で対抗するでしょうか?

本当に憤っていて、絶対に守りたい、勝ちたいと思うなら、徹底的に自分たちに否が無いこと、相手に非があることを証明するために、客観的に証拠を積み重ね、妥協せずさまざまな事実を調べ上げ、論理的破綻がないように自分たちの意見を積み上げます。

 

この本は、まさにそういうタイプの本なのではないかな、と思います。

最初から最後まで、事実を丁寧に積み上げて築かれた、論理的な構成になっています。

 

とはいえこの本に書かれているのは安倍総理側、安倍総理に親しい人の主張する意見です。

当然、逆の立場の意見もありますし、それは法定の場で、フェアにお互いがエビデンスベースで議論をし、着地点を探せば良いのだと思います。

実際、朝日新聞は大川栄太郎氏に申入書を送り反撃していますし、この本で記載されていたことの何が事実で何が不正確なのか、国民の目の届く中で法律に基づいた正々堂々とした方法でフェアにやりあってほしいなと思います。

www.asahi.com

農民工

中国には都市戸籍(非农业户口)と農民戸籍(农业户口)の二種類の戸籍があり、都市戸籍を所持するひとは4億人、農民戸籍は推定で9億人いるといわれています。

そして、戸籍によって様々な制限があり、基本的に都市戸籍を持たないひとは都市(北京、上海など)に土地を所有し定住することは難しいと言われています。そして、今までは、たとえば農民戸籍を所持するひとが都市戸籍を所有するのは難しいとされていました。

中国では都市部と農村部では貧富の格差が日本では想像できないくらい大きいため、農村部の多くのひとはお金を稼ぐために都市に出稼ぎに出たり、安い粗末な部屋に住み定住したりしています。彼らのことを「農民工」と呼び、都市戸籍のホワイトカラーが行いたがらない単純労働で低賃金の作業を担う労働力となっています。農民工はおおよそ3億人いると言われています。

 

実際のところ、戸籍を一つに統一しようという動きは現在進行形で行われているようです。

といっても Baidu のページなどを見ても、戸籍の緩和制作は新疆や貴州などの偏狭な地域で行われており、上海や北京などでは逆に締め付けが厳しくなっているようです。

baike.baidu.com

 

といったあたりの話は、ちょっとでも中国の情報をかじっているひとであれば誰でも知っている内容で、その内容を補完する意味でいくつか本を読んでみました。

 

戸籍アパルトヘイト国家・中国の崩壊 (講談社+α新書)

戸籍アパルトヘイト国家・中国の崩壊 (講談社+α新書)

 

 本書は、最初の方では実際に農村に訪れて、GDP を嵩上げするために無用と思われる過度な開発を行っている現場についてのレポートや、都市戸籍と農民戸籍によって最終学歴の顕著な差があることをグラフで可視化したりしているところは参考になりました。

しかし著者の思い込みの強さからデータが不十分ななか極端な結論を振りかざす部分も見て取れ、彼の全体的な著作の信憑性にも悪影響が出るんじゃないかと不安になる内容でした。

 

 

農民工のここ10年の実情については、以下の書籍が参考になると思います。 

3億人の中国農民工 食いつめものブルース

3億人の中国農民工 食いつめものブルース

 

ライターとして上海に在住している著者が、数多くの農民工と交流をすることで彼らの実像を描き出そうという、エッセイ的な書籍です。

農民工の日々の生活や、都市戸籍を持つ人間から向けられる容赦のない差別的な言葉、それらを受け止めてそれでも生きるために必死にもがいている姿などが生々しく描かれています。

個人的にびっくりしたのは、シングルマザーの子供は戸籍が認められず、かつ巨額の罰金を課せられるという事実。現在はたとえば高速鉄道を乗るのにも中国では戸籍を証明する身分証が必要ですが、戸籍が存在しないということは移動の自由すら与えられていないということを表します。本来愛し合っていたはずなのに、自身が農民戸籍であったが故にパートナーの両親に結婚を拒まれ、それでも子供を産み落とした結果経済的に転落していく様は衝撃的でした。

 

著者は10年ちかく上海に滞在し、農民工の方々とも長期的に関係を築いてきたようです。

その中で描き出される今昔の対比も印象的でした。

昔は都市戸籍のひとふくめ皆がそこまでお金をもっておらず格差が明るみでなく、農民工のひとたちもある程度の夢とゆとりをもって生活しているようでした。

それが中国の発展にともない、地価が上がり、物価があがり、土地の所有権をもっている都市戸籍のひとは再開発地域に選ばれると高い補填金をもらって成金になったりするひとが数多くいる中、農民工は仕事も減り給与も下がり、みるみる生活に困窮していく様が描かれています。

そして、政府は大都市からは農民工含め不適切と判断する人たちを追い出しにかかっているようです。かれらに対する救済措置は不十分なまま、あるひとはアフリカに出稼ぎにでかけ、あるひとは地方都市をさまよい、漂流する様も描かれています。

 

そんななか、著者は面白い指摘をします。

自分はいろいろ理不尽なことがあったら怒るし、上海にいてもよく怒っているけど、農民工の人はあまり怒っているようには見えない。と。

その理由をいくつかのエピソードで紹介されていましたが、基本的には、農民工の多くは中国はいま右肩上がりで経済成長していて、彼らの生活も我慢して働いていればきっと将来は良くなるはずだ、と信じているから。

しかし都市戸籍の人が土地成金的にお金をてにする中、自分たちにはそのような拠り所もなく、仕事も減り、給与も下がり、そのうえ物価はびっくりするくらい高騰して、生活への困窮は避けられません。

それでも、ある人は CCTV などのテレビの報道内容を信じ「中国は世界に冠たる大国になった」ことを自分の心の支えにしたりしています。

それでも、まったく改善しない生活に疲れ、日々の愚痴が増えたり、学習意欲や勤労意欲をなくしたり、そんな絶望感に苛まれ始めている農民工の姿も描かれています。

つまり、怒りが無いように見えるのは、将来への希望があったから。それらが失われたときに、その怒りは、どこへ向かうのでしょうか。

 

同じ中国で、同じ都市で生活をしているにも関わらず、ここまで人間模様が異なるのか、と驚きを隠せません。

そして、都市の発展に取り残された彼らが、何かをきっかけに捨て身の行動に出ることも、確かにそんなに絵空事ではないようにも思えてきます。

 

 

 

世界をつくった6つの革命の物語

 

世界をつくった6つの革命の物語 新・人類進化史

世界をつくった6つの革命の物語 新・人類進化史

 

 

一年前くらいに邦訳が出た本にようやく辿り着いたのですが、とても面白かったです。
ここ100年前後のあいだに起こった、人類を不可逆に進化させた6つの発明について独特の視点で解説している本です。
その発明とは「ガラス」「冷たさ」「音」「清潔」「時間」「光」

 

地球上のどこにでもある珪素を加工することにより人間は古来から小さいものや遠くのものが見えるようになり、大きく科学・化学が進化することに寄与しました。近代ではその光を通す性質から世界中のインターネットを支えるケーブルや液晶ディスプレイの基になり、ガラスは我々のIT生活の根幹をなす替えの効かない存在になりました。

 

冷却技術が存在しないころ、食料保存の問題、熱帯地方での居住の問題があり、今よりもずっと狭い範囲にしか居住できませんでした。人工的に冷やす技術が生み出されたことにより我々は熱帯地域でも居住することができるようになり、さらに卵子の保存に応用されるなど人類の生命誕生の選択肢を大幅に広げています。

 

音を遠くの人と共有することができるようになりコミュニケーションが高度化し、娯楽としての音楽が爆発的に普及しました。同時に小さな音を拡散する技術により多くの政治家がそのメッセージを伝えることにより世の中に変化がもたらされました。

 

清潔という概念が発明され、水などの汚染が疫病の原因であることが突き止められることにより、今まで人が密集しすぎると衛生問題が発生し突破できなかった人口の限界点を超えることができるようになり、大都市が成立できるようになりました。

 

時間を正確に測ることができるようになることで海路で自分がいる場所を正確に測定できるようになり、行動範囲が広がりました。また、同じ場所に同じように人が集まることができるようになり、労働生産性が向上しました。その技術は今は原子時計となり、その応用としてGPSのように世界中の位置測定にも活かされています。

 

光を人工的に容易に作り出せるようになったことで生活習慣が変わっただけでなく、レーザー光線の発明によりバーコードが生み出され大量の商品管理が行えるようになり経済が飛躍的に発展し、今は人工的なエネルギー源としての開発が行われています。

 

これらの発明は、すべてここ100年前後のあいだにもたらされたもので、それらの発明はひとつでも存在しなければ我々は今のように現代的な生活を送ることができないものです。

これだけ短い間に人類には多くの進化がもたらされていること、そのことにより居住可能な場所が増え、人口が飛躍的に増加し、我々の生きる選択肢が多様になっていること。

この本を読むと今では当たり前のように周りにあるものの存在の大きさを感じさせずには要られません。

そして、これからのイノベーションというものを考える上でも、参考になる示唆が沢山含まれている書籍だと思います。

たとえば昨今IT系で騒がれているブロックチェーンや中国での電子決済の仕組みなどは皮相の技術でほんとうの意味ではイノベーティブではなく、では何が長期的な視点でイノベーティブなものなのかというと例えばゲノム編集とかiPS細胞とかそういうものなのであろう、というような抽象的で根源的なものへの思索を巡らすことができます。


実は僕は数年前にたまたまNHK BS でやってた ”How We Go to Now” (日本訳は「いまに至る道」)という、アメリカ作の、顔立ちの整った論理的な話し方をする科学者が進行役のドキュメンタリーを見て、とても面白い内容だったのでそのときに再放送を全話録画しました。

その進行役の人が実は本著者のスティーブン・ジョンソンで、今改めて思うとこの本に取り上げられていたのと同じエピソードが当時の映像や現地取材をもとに描かれていました。この本を読んでその記憶が蘇り、あらためてそのドキュメンタリーを見返したりしています。

我々は良質な情報に実は囲まれているのに、意外と意識をしてないし気づけないものだな、というようなことも感じたりしました。