アイ

現代中国経営者列伝

 

現代中国経営者列伝 (星海社新書)

現代中国経営者列伝 (星海社新書)

 

巷で話題になっている本です。

中国通と称されるライターは数多くいますが、正直「?!」と思うような偏った謎知識を披露して、受けての知識不足を良いことに好き勝手言っている人がそれなりに居るように思えます(具体名は控えます。漫画家で言えば代表格は井上純一さんですが。)

その中でこの人は、「Kinbricks Now」という中国情報サイトを長年運営してきている方で、このサイトは色々な意見を織り交ぜながら中国の等身大の姿を伝えようとする努力が見えるサイトで、この方の書く本であれば読んでみたいな、と思い、購入してみました。

kinbricksnow.com

 

当書の内容としては、中国の立志伝中の英雄になっている経営者8人について、その創業から「第一佣金(最初に掴んだ富)」、そして大成功に至るまでのストーリーが簡潔にまとめられている本です。

中国では当代の経営者の成功譚が「励志书籍(自己啓発書籍)」として大変人気があり、そのテイストを日本語で再現することを企図したもの、のようです。

私も 马云 (阿里巴巴の偉い人) の 励志书籍を読んだりしたことがありますが、中国語としても平易で書かれていますし、たしかに物語が立身出世のお話なので読んでいて躍動感と高揚感があり、人気があるのもうなずけます。

 

さて、当書を読んで思うのは、この本に取り上げられている経営者のほぼ全てが、中国の国策によって保護されていたり、中国ならではのある意味西欧諸国的な視点ではグレーゾーンを踏み越えた行為により他国の富を収奪してでも自国や自社の富を築いており、そんなブルドーザー的な猪突猛進な経営者の姿が描かれています。

愛国心と政府との蜜月が目立つ lenovo (联想) や、ダノングループとライセンス契約を結んだ挙句その利益の大半を掠め取った哇哈哈、大量の違法コンテンツの存在と外国企業のサービスがブロックされているという環境を軸に成長した youku (优酷) などなど。


企業の成長過程が欧米的感覚から想像しやすい例外は、早くから研究開発に多額の資金を投じてきた huawei (华为) くらいですが、huawei も軍人が興した会社ということで政府との結びつきを否定できなかったりします。

実際、huawei の製品はアメリカ政府とのやり取りの結果、2013年にアメリカから撤退したりしていますね。

gigazine.net

 

企業の違法性は置くとしても、阿里巴巴などを含めた大半の企業が中国大陸を主な市場としていて、その他の市場では中国ほどの成功を収めていないことが共通しています。ある意味、中国大陸の旺盛な内需により成長している内向きな企業群とも言えます。


ちょうど並行して読了した『「お金」で読み解く世界史』という本でも、中国は有史以来ほとんどの時期で内需頼りの内向きな為政を行ってきたと書いてあり、ある意味地政学的にも歴史の流れを踏襲しているようにも見えます。

 

「お金」で読み解く世界史 (SB新書)

「お金」で読み解く世界史 (SB新書)

 

 

じゃあ、中国の企業は保護されてきただけで、このグローバル経済の環境下で中国の会社はいつか壁にぶち当たるのか、だから軽んじていても良いのか、というと、そうでは無いことが巻末の「次世代の起業家」の項でよくわかります。

 

この本では中心に取り上げられましたが、この本の8人のような成り上がり社長は最近は影を潜め、欧米で先進的な教育を受けたり MBA を取得したりするエリートが経営の場でも活躍をし始め、その能力は世界上で見渡しても見劣りすることが無いようです。


この本には例として記載されてないですが DJI (世界最大のドローンの会社)のようにグローバルで No.1 の企業が出てきていますし、Uber を中国市場では飲み込んでしまった配車サービスで話題の didi (滴滴出行) の社長は lenovo の創業者 柳传志 の実の娘(柳青)で先日世界中から 60 億ドルの資金調達を終えたばかりだったりと、グローバルで戦える会社が続々出てきています。


そのように移り変わる中国の創業者の姿を、短時間で概観するには当書は素晴らしくよくまとまった本だと思います。